大判例

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高松高等裁判所 昭和31年(ラ)16号 決定 1958年6月19日

抗告人 国東春義

相手方 株式会社常磐百貨店

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。高松地方裁判所が昭和二十七年十一月六日発した差押命令により差押をなした高松電話局第四五五〇番の電話加入権を競売により換価する。」との裁判を求める、というのであり、その抗告理由は別紙記載の通りである。本件抗告理由はこれを要約するに、抗告人(債権者)は相手方会社(債務者)との間の高松簡易裁判所昭和二七年(イ)第四六号貸付金和解事件における和解調書の執行力ある正本に基き、昭和二十七年十一月五日高松地方裁判所に対し電話加入権差押命令の申請をなし、同裁判所は同年十一月六日相手方会社の有する日本電信電話公社高松電話局電話番号第三九二二番及び第四五五〇番の各電話加入権につき差押命令を発したものであるが、右差押命令正本は同年十一月七日第三債務者たる日本電信電話公社高松電話局に送達され、右各電話加入権に対する差押の効力が発生したにも拘らず、原裁判所が右第四五五〇番の電話加入権については、未だ差押がなかつたものとして、右電話加入権に対する換価命令申立を却下したのは失当である、というに帰する。

仍て本件記録を調査するに、前記債務名義に基く抗告人の申請により高松地方裁判所が昭和二十七年十一月六日相手方会社の有する日本電信電話公社高松電話局電話番号第三九二二番及び第四五五〇番の各電話加入権につき差押命令を発したこと、右差押命令正本は同年十一月七日第三債務者である日本電信電話公社高松電話局に、翌八日債務者である相手方会社に夫々送達されたこと並に右第三九二二番の電話加入権については、抗告人の換価命令申請に基き昭和三十一年二月六日高松地方裁判所より換価命令が発せられたが、前記第四五五〇番の電話加入権については、原裁判所はこれに対し差押がなかつたことが一応窺われるとして抗告人のなした換価命令申立を却下する旨の決定をしたこと記録上明らかである。而して原審における相手方会社代表者飯間浅吉審尋の結果並に原裁判所の照会に対する高松電話局長行夫正信の回答書を綜合すれば、相手方会社は右第四五五〇番の電話加入権を前記の如く差押命令が発せられた後において株式会社小野光電社(以下単に小野光電社と称す)に対し譲渡し、高松電話局は昭和二十八年八月三日右譲渡を承認した事実並に高松電話局は前記差押命令の送達を受けながら、第四五五〇番の電話加入権については、電話加入原簿に差押の事実を登録していなかつたことを認めることができる。

仍て先ず右第四五五〇番の電話加入権(以下単に本件電話加入権と称する)に対し差押の効力が発生しているか否かにつき考察するに、電話加入権に対する差押は差押命令が第三債務者たる日本電信電話公社(但し当該電話の所管電話局)に送達されると同時にその効力を生じ(民事訴訟法第六百二十五条第一項第五百九十八条第三項参照)、所管電話局が電話加入原簿に差押の事実を登録することは、差押の効力発生の要件ではないと解するを相当とするから、本件電話加入権については、前記の如く電話加入原簿に差押の登録がなされなかつたとしても、本件電話加入権に対する差押命令が高松電話局に適式に送達されたこと前記の通りである以上、本件電話加入権に対する差押はその効力を生じているものといわなければならない。

そこで進んで本件電話加入権差押命令後に本件電話加入権を譲り受けた前記株式会社小野光電社が本件電話加入権の取得を差押債権者である抗告人に対抗し得るか否かの点につき検討する。凡そ電話加入権に対する差押がその効力を発生した後に債務者より当該電話加入権を譲受けた者は、原則として右電話加入権の取得を差押債権者に対し対抗することができないものというべきであるが、日本電信電話公社がかかる譲渡に対し異議を留めずに承認を与え且つ譲受人が当該電話加入権に対する差押の事実を全然知らなかつたような場合には、善意者保護の見地より右電話加入権譲受人はその権利の取得を差押債権者に対抗することができるものと解するのが相当である。今本件の場合につき観るに、原審における相手方会社代表者飯間浅吉審尋の結果に徴すれば、相手方会社代表者は本件電話加入権を小野光電社に対し譲渡するに先立ち、高松電話局へ赴き本件電話加入権に対する差押の有無を調査したところ、同電話局係員は、本件電話加入権については差押の事実がない旨答えたので、本件電話加入権については差押がなされていないものと誤信して、小野光電社に対し本件電話加入権を譲渡したものであることを認めることができ、高松電話局は本件電話加入権については電話加入原簿に差押のあつたことを登録していなかつたため、相手方会社より小野光電社への本件電話加入権譲渡申請につき、異議なく承認を与え、また小野光電社は差押の事実を全然知らなかつたものであることを窺うことができる。然らば本件の場合小野光電社は本件電話加入権の取得を差押債権者たる抗告人に対し対抗することができるものと一応認めざるを得ない。そうだとすれば、本件電話加入権に対しては最早換価命令を発するに由なく、原裁判所が本件電話加入権については差押がなかつたものと判断したのは失当であるけれども、本件電話加入権に対する換価命令申立を却下したのは、結局において相当であるといわなければならない。

仍て本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条第八十九条第九十五条により主文の通り決定する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

別紙 抗告理由

第一

一抗告人債権者は債務者に対し高松簡易裁判所昭和二七年(イ)第四六号執行力ある和解調書正本掲記の債権を有せるものとある

二債務者は昭和二七年一一月五日以前より第三債務者日本電信電話公社に対する別紙第一目録記載電話加入権を有せるものである

三抗告人債権者は債務者に対する前記和解調書記載債権につき強制執行のため執行管轄裁判所なる原審裁判所へ昭和二七年十一月五日同執行力ある和解調書正本に基き債務者が第三債務者に対し有せる別紙第一目録記載電話加入権の差押命令申請手続をなし原審裁判所は昭和二七年一一月六日同庁昭和二七年(ル)第一四号電話加入権差押命令をなさる

四右電話加入権差押命令の決定正本は

債権者(抗告人)に対し昭和二七年一一月七日に

第三債務者に対し昭和二七年一一月七日に

債務者に対し昭和二七年一一月八日に

各夫々送達せられたるものである

五債務者第三債務者は何れも前記抗告人債権者の電話加入権差押命令申請並に決定に対する異議乃至不服申立の手続をなさず該決定は確定す

而して右差押命令の決定同決定の送達は適法且合式になされ何等違法なる所なし

第二

一債務者の有せる前記差押命令の決定せられたる別紙第二目録記載電話加入権は財産権差押強制執行の対象適格性を欠如し居らず故に同電話加入権他の本件差押強制執行は適法である

二別紙第二目録記載電話加入権に対する強制執行の差押は第三債務者に対し同差押命令の決定正本の送達せられたるときに其効力発生せるは従来判例の示す所である

第三

一公衆電気通信法(以下電話法と略称す)

電話加入権が金銭債権の強制執行の対象財産権なるは同電話加入権の譲渡禁止期間中と雖も差押可能とせるは判示屡々せられあり

差押後の移転は差押債権者に対抗出来ず

「大決民集九巻一五九頁

大判民集九巻三〇八頁

大判民集一一巻一三二八頁」

二電話法三八条と加入権差押

電話加入権の譲渡(三八条)には公社の承認を効力発生要件とせるか強制執行手続による加入権の差押は譲渡にあらず前記の差押は決定主文表示の通り

主文

右債権の弁済に充つるため債務者の有する別紙目録記載の電話加入権は之を差押える

債務者は右電話加入権につき売買、譲渡その他一切の処分をしてはならない

第三債務者は右差押えに係る電話加入権につき債務者の申出により名義書換手続をしてはならない

と権利処分を禁止せる決定で第三債務者は執行裁判所の前記決定を其決定送達ありたる以後決定の効力を滅却する処分は全然許容せられたる法令なし

仮りに故意若しくは過失により差押命令の決定に違背の処分をなせるも該処分は差押債権者に対抗出来ず

三電話法三八条と換価命令

一金銭債務の債権者が其強制執行とし債務者の有せる電話加入権の差押をなせる場合に於ては同電話加入権自体を引取り若しくは転付するは許されず之が処分は競合差押の場合は勿論単一差押の場合に於ても換価処分の手続によるべきものとす

而して換価命令による換価競売の実施に於ける競買人は電話法三八条に所謂譲受人となるべきを以て同三八条第一項第二項第三項の適用あるは本件の場合別個の問題なるを以て省略す

電話加入権が所謂享受一身に専属の財産権にあらずして其財産権中差押禁止の規定制限もなし

同三八条第二項に於て明らかに第一項の譲渡承認拒否につき公社の承認権行使に制限を加えある法意よりするも明らかなる所

第四

電話加入権の性質

一電話加入権(以下加入権と略称す)の発生は電話法に二十九条の規定による加入契約締結により発生せる権利なるか其の発生の加入権の性質に関し他の諸面は暫く措き

民事訴訟法第六二五条の適用ある加入者の財産権なることは学説に於ても判例に於ても争なき所である

二加入権は同法第三八条第二項の制限を受くる範囲外に於て譲渡を許容せられたる財産権て公社自体と雖も同項後段明記の通り譲渡承継を拒否出来ぬ財産権である

三加入権の譲渡に公社の承認を必要とし之れなき場合譲渡の効力を生せずと特に規定せるか該「効力を生じない」との規定は

譲渡其ものに付き譲渡当事者間の効力は別とし公社に対する関係に於てのみ所謂譲渡効の生せず譲渡契約当事者間の効力迄抹殺すべきものではない

而して第一項第二項を対照するも承認に伴う譲渡効発生の時期が承認のときよりなるや将又遡及し効力発生するを肯定し得るやに関し後者を正解とせるか是当然と云うべし

四尚加入権の性質に関する解説は追加す

第五

電話加入原簿の性質

電話法四〇条第一項に於て

「公社は郵便省令で定めるところにより電話加入原簿を備え電話加入権に関する事項を登録しなければならない」

と規定し

民法上に於ける第三者に対する登記の効力(一七七条)

同法に於ける設立登記をなすに因りて成立す(五七条)

同法記名株式に於ける株主名簿記載を対抗要件(三〇七条)

船舶法に於ける所有者は登記をなしたる云々(五条)

道路運送法に於ける自動車所有権の得喪は登録を第三者に対する対抗要件(四条、五条)

鉱業法に於ける鉱業原簿の登録は登記に代わる云々亦設定移転の登録云々(五九条一項・二項六二条)

特許法に於ける特許権は登録により発生する亦処分の対抗要件云々(三四条四五条)

不動産登記法に於ける登記権利の順位は

受附番号順による(六条七条)

処分異議の規定(一五〇条)

権利証(登記済証)(六〇条)

等々

に於ける規定は電話法中に何等加入原簿記載の効力性質に関する規定を看す

電話加入原簿の記載に

不動産登記法に於ける二五条六三条の二六五条

非訟事件手続法に於ける登記更正抹消登記登録の錯誤遺漏の通知(一四八条、一四八条の二、五一条の六)

等の規定は電話法中に加入原簿記載過誤遺漏の場合に付き何等規定を看す

次に

電話加入原簿公示の閲覧規定及び謄本交付規定すら欠如す

之れに因つて是を見同時に同四〇条第一項後段規定

「電話加入権に関する事項を登録しなければならない」

を各対比するとき

右電話加入名簿の同「事項を登録しなければならない」の規定は公社内部執務者に対する部内規定なると同時に注意規定の範囲に属し加入原簿の登録記載は第三者に対する対抗要件の性質並に効力を規定せるものにあらず

同時に同登録記載は必ずしも全面的に申請乃至申込若しくは届出を原則手続とせることはなく所謂職権主義形態を採り如何なる順位に於てなさるべきや亦如何なる時期に於てなさざるべからざるや

若し之れに違背の場合に対する正当救済手続並に是正手続に何等の規定なし

利害関係人は僅かに

同法第四〇条第二項により証明書の交付請求権あるのみ

此証明書にして誤記あらんか原簿の閲覧権若しくは謄本交付請求権なきを以て誤記遺漏遺脱は永久に知ること出来ず

原審裁判所は

本件電話加入権差押命令の決定が加入原簿に登録記載なきの一事を

而して加入権の差押なる重要事項を公社当務者の重大なる過失怠慢により遺漏せるを如何なる法規に基きたるか

民事訴訟法六二五条及び同法五九八条の

規定を無視し

裁判所の差押命令の決定効を恰も第三債務者の意思に左右せしめ差押命令を抹殺せるは近来稀に看る違法とする

第六

別紙第二目録記載債務者の本件電話加入権に対しては他の債権者より今日に至るまで強制執行は全然なかりしものである

第七

抗告人債権者は昭和三十一年一月三十日差押命令の決定に基き執行裁判所へ同差押に係る電話加入権の換価命令申立をなす

第八

原審執行裁判所は第三債務者が過失か怠慢かは別とし前記差押命令の決定正本を受領しながら電話法第四〇条の規定あるに不拘部内関係の事故とは云へ電話加入原簿に登録を遺脱し差押の効力発生せる別紙第二目録記載電話加入権を昭和二十八年八月三日従前何等の権利なき株式会社小野電光社に債務者より不法譲渡を容認し同法三八条により該旨を電話加入原簿に不法登録せるの一事により右抗告人差押債権者の適法合式に効力発生の差押を失効せしめたる上決定をなせるは違法である

電話加入権の差押強制執行ありたる後に為されたる譲渡は差押債権者(本件の場合抗告人)に対抗出来ずとの判例は補追す

第一目録

日本電信電話公社

高松電話局

電話番号三九二二番

電話加入名義者

高松市南新町三五番地

旧名称 株式会社太丸百貨店

現名称(改称) 株式会社常磐百貨店

電話番号四五五〇番

電話加入名義者

高松市南新町三五番地

株式会社常磐百貨店

第二目録

日本電信電話公社

高松電話局

電話番号四五五〇番

電話加入名義者

高松市南新町三五番地

株式会社常磐百貨店

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